中村 大輔
RAPID OBC | BIMJAPAN Inc.
ベトナム製造業の熱狂と、誰も語らぬ「空白の1時間」
ホーチミンのコンテナヤードで、たった1時間の遅れが数千万円の損失に繋がる現実。ベトナムの物流現場で何が起きているのか、その深層に迫ります。
午前2時47分、ホーチミン市のタンソンニャット国際空港(SGN)貨物ターミナルで、一本の電話が鳴り響きました。愛知県の自動車部品メーカーの現地法人からでした。生産ラインが止まる寸前、たった一つの特殊なボルトが足りないというのです。
多くの人は、海外工場で部品が不足すれば、航空貨物で緊急輸送すれば良い、と考えがちでしょう。現地のフォワーダーに連絡し、翌日には届く。まるで魔法のように、部品が空を飛んでくるイメージかもしれません。しかし、現実はそれほど単純ではありません。
空港の裏側で
まず、緊急の部品輸送が決定すると、現地の担当者は慌てて部品を梱包します。この時点で、通常の輸出通関に必要な書類が全て揃っていることは稀です。インボイスやパッキングリストは手書き、あるいは暫定的なもので済まされがちです。ベトナムの税関は、日本ほど融通が利くわけではありません。書類の不備があれば、そこで足止めを食らいます。これは、現地のフォワーダーが最も神経を使う部分でしょう。
次に、空港への輸送です。ホーチミン市内からSGNまでは、時間帯によっては渋滞が激しく、通常1時間で着くところが2時間、3時間かかることも珍しくありません。深夜であればまだマシですが、それでも予期せぬトラブルはつきものです。部品が空港に到着しても、すぐに航空機に積み込まれるわけではありません。航空会社への貨物引き渡し、セキュリティチェック、そして搭載スペースの確保といったプロセスがあります。

特に、ベトナム発の国際線は、貨物スペースの争奪戦が日々繰り広げられています。通常の貨物便はもちろん、旅客便のベリースペースも常に満載状態です。緊急貨物だからといって、必ずしも優先されるわけではありません。航空会社との長年の信頼関係や、フォワーダーの交渉力が問われる場面です。ここで数時間、あるいは半日を無駄にすることもよくあります。
最後の1マイルの壁
日本に到着した後も、課題は山積しています。NRTやKIXに到着した貨物は、まず輸入通関が必要です。ここでも書類の正確性が求められます。日本の税関は効率的ですが、それでも通常のプロセスを踏めば時間がかかります。緊急性を鑑み、税関職員が迅速に対応してくれることもありますが、それはあくまで「例外」であり、常に期待できるものではありません。
通関後、貨物は保税倉庫から引き取られ、最終目的地へと向かいます。愛知県の自動車部品工場であれば、NRTから陸路で数時間かかります。この陸送の段階でも、交通状況やドライバーの手配など、様々な要因が絡んできます。多くの企業は、この「最後の1マイル」を自社のトラックや契約運送会社に頼っていますが、深夜や早朝の緊急対応は、通常の業務フローでは対応しきれないことが多いのです。
なぜ「空白の1時間」が生まれるのか
多くの人が見落としているのは、この一連のプロセスの中で発生する「空白の時間」です。例えば、SGNで部品が航空会社に引き渡されてから、実際に航空機に搭載されるまでの時間。あるいは、NRTで貨物が到着してから、通関を経て陸送業者に引き渡されるまでの時間です。これらの時間は、通常の航空貨物では「仕方ないもの」として見過ごされがちです。しかし、生産ラインが止まるような緊急事態においては、この数十分、数時間のロスが致命的になります。

ベトナムの製造業は急速に成長していますが、それに伴う物流インフラやサービスは、まだ追いついていないのが現状です。特に、緊急性の高い貨物に対する「きめ細やかな」対応は、日本のような成熟した市場に比べると、まだ発展途上だと言えるでしょう。多くのフォワーダーは、通常の航空貨物や海上貨物の取り扱いには長けていますが、イレギュラーな緊急輸送、特にハンドキャリーのような超特急サービスとなると、対応できる企業は限られてきます。
埋められないギャップ
このギャップを埋めるのが、ハンドキャリーサービスのような専門業者です。彼らは、通常の物流ルートでは発生する「空白の時間」を極限まで短縮するために存在します。部品を現地で直接ピックアップし、専用の通関ルートや航空会社との特別な契約を駆使して、最も早い便に搭載します。そして、到着地の空港でも、通常の貨物とは別に、手荷物として優先的に通関し、そのまま最終目的地まで届けます。この一連のプロセスは、通常の物流コストの何倍もの費用がかかりますが、生産ラインの停止による数千万円、数億円の損失を防ぐことを考えれば、十分にペイする投資だと考えられます。
ベトナムの製造業が今後も成長を続ける中で、このような「空白の1時間」を埋める物流ソリューションの需要は、ますます高まっていくでしょう。通常のフォワーダーでは対応しきれない、きめ細やかな緊急輸送サービスは、単なるコストではなく、企業の事業継続性を支える重要なインフラとして認識されるべきです。例えば、RAPID OBCのような専門業者は、このニッチな領域で独自の価値を提供しています。単に物を運ぶだけでなく、時間とリスクを管理する、それが現代の国際物流に求められる新たな視点ではないでしょうか。